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随想・花村一生先生の昔話

更新日:2018年05月23日

随想・花村先生の昔話

 花村先生の父親が急逝したのは、昭和41年、先生が高校3年生のときのこと。実母はすでに亡く、後家に入った義母がはじめての胎児を宿していた時期であった。妹はまだ中学生。そんな時期に父親が急逝したわけである。

 父親に財産はない。親戚が負担した葬儀が終わり、先生がまず考えたことは、これからは自分が義母と妹を養わなければならないということであった。血のつながりのない義母と胎児を自分が守らなければならない、と高校生の身で覚悟を決めたそうです。

 葬儀から数日後、義母は胎児を堕ろした。その翌日、荷物をまとめて何も言わずに家を出て行ったそうです。

 「女は強い、と僕が思うのはそういうことがあったからです。」そう言われる先生の横顔は、私にはくもりのないものに見えました。女性に対する失望などない。ただ、生きていくのがやっとの時代に感情を殺して合理的な選択ができること、いい悪いではない、それは男にはできない、と言っているように思われた。

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