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よくわかる相続・税金のしくみ

相続法改正・遺留分制度の見直し

更新日:2018年12月10日

遺留分制度の見直し

(1)改正理由

遺留分とはなにか

 遺言者は、遺言書で自由に財産を配分できる。これが原則です。だから、「長男にすべての財産を相続させる」とかいう遺言書も有効なんです。

 しかし、一緒に生活してきた相続人には、遺産に対する期待もあるし、今後の生活資金を遺産に頼る人もいます。それなのに、おやじが愛人にすべての財産を遺贈しちゃうと、妻も子供も困るでしょ。そういう不幸を防止するために、民法は、相続分とは別に遺留分という最低保障を認めています。

 この遺留分、通常は、法定相続分の半分です。権利があるのは、配偶者、子供、親です。兄弟姉妹などの縁遠い相続人には遺留分は保障されません。

 だから、独身の方で、配偶者も子供も親もいない人は、完全に自由です。遺言書である人にすべての財産をあげることができます。

行使方法

 もっとも、この遺留分、ほかっておいてももらえるものではありません。通常、遺言書を見たときから1年で権利が消滅してしまいます。

 別にもらわなくてもよいというのであればそれそれで自由です。兄貴が本家を継ぐからとか、もう家を建ててもらったからとか、様々な理由で遺留分を行使しないこともあります。

 ほしいというのであれば、遺言書をみたときから1年以内に、ほしいと言うことです。これを遺留分減殺請求というのですが、もらいが多かった相続人に対し、遺留分をほしいと意思表示するんです。1年経ってから気が変わってほしいと言っても遅いです。権利が消滅するんです。

法的性質・物権的効果

 では、この遺留分を主張したときに、どういう法律関係になるのか?

 図で説明しましょう。添付資料6です。

 このように不動産は共有状態になります。解約していない預貯金は遺留分侵害割合で債権譲渡されます。解約した預貯金については不当利得返還請求権が生じます。株式は準共有です。

 つまり、不動産は物権が動く。債権は当然に権利が移転する。株式に持分が生じる、などの物権的な効果が生じます。これが現行の仕組みです。

なぜ変えるのか

 これでいいじゃないか。共有状態で権利関係が決まるならそのままほかっておけばいいじゃないか。なぜ変える必要があるのか。そう思いませんか。でも、変える必要があるんです。

 いくつか理由はあります。まず、複雑です。共有持分や権利が一部移転するっていったって、目に見えるものではない。国民は法律なんてよくわからない。法律なんて小賢しいやつが興味持つことで、正直に、かつ、常識にしたがって生きてる人間は興味なんかないんです。でも、民法は、国民の法律です。本来、専門家がいらなようにわかりやすく作らなければならないはずです。それがこういう内容では面妖です。皆目、わからない。

 そして、一番大きい理由は、不動産の共有状態が紛争を複雑化させるからです。

 不動産に限りませんが、共有状態というのは本当にやっかいなんです。遺留分が原因となった共有なら普通喧嘩してるでしょ。管理の仕方自体協議をしなければなりませんが、協議自体成立しないこともある。売却や取り壊しなどの処分をするときは全員の同意が必要です。喧嘩している兄貴のために絶対に実印なんておさないでしょ。そして、普段もいやがらせです。持分が多い人が好きに使用していると、持分がすくない人が不当利得返還請求で金を請求する。もう、民法上の処理だけでめんどくさい。

 そして、ややこしくするのは、税務です。固定資産税は共有持分で分担が原則ですが、とりあえず代表者が市役所に全額支払わなければならない。その後に、当事者間で請求しても少ない持分権者は電話にも出ません。

 普通の自宅でも大変なんですが、アパートでもあってみなさい。所得税の申告は複雑怪奇です。建物の共有持分で各自収益・経費を計算して、税務申告しなければならない。喧嘩してればお互い資料のやり取りは無理です。税務上の処理も加わってだれも整理できない。

 さらに、不動産ならまだ最後は金で解決できるんです。問題は、株式です。同族会社の株式が相続財産にあるとしますね。で、後継ぎにすべてという遺言書。ほかの相続人が遺留分減殺請求する。とたんに、株式は準共有です。原則、だれも、株主総会の議決権が行使できなくなる。株主総会が開かれなければ取締役も決まらない、取締役会も開けない、代表取締役が取引先と契約できない、融資が頼めないなど経営がとん挫する。

 こういう事態はすべて共有だから生じるんです。共有状態は諸悪の根源なんです。財産は単独所有権でもつ。使用・収益・処分をひとりが決める。時間をかけない。それが資本主義が発展した原因、今日、人類がかつて想像もできなかった豊かさを享受できるようになった原因のひとつなんです。

(2)内容

法的性質・遺留分侵害額請求権

 今回の改正では、これが抜本的に変わる。びっくりするくらい変わります。

 遺留分の計算方法は、ほぼ従来どおりです。でも、権利の性質が変わる。遺産ひとつひとつに共有持分はつかない。もう、もらいが多かった相続人の単独所有権で確定です。

 その代わり、もらいが少なかった遺留分権利者は、もらいが多かった相続人に対し、金を払えと請求することになります。物権ではなく、債権ですね。これを遺留分侵害額請求権といいます。

金の代わりに遺産の一部を渡すことはできない

 これで、みんなハッピーになるかというとそうではない。たとえば、不動産や非上場株式はたくさんあるが、預金は少ないというケースがある。というより、こういうケースの方が多い。

 それなのに、もらいが多かった相続人はどこから金を出せばいいのか、困りますよね。自分の金なんてない。そういうときに、金の代わりに、遺産のうち、たとえば手ごろな不動産を渡すとか、一部株式で渡すとかできるのか。今回の改正では、これはできないんです。完全にお金で解決にしてしまったのです。

 今回も、原則、金の支払いで解決、ただし、金の代わりに、遺産を一部渡すという選択肢も選べる、という制度でも良かった。ある意味、自然ですよね。いつも金があまっているケースばかりではないんだから。法制審議会の提案ではず~っとそのような流れだったんです。

 ところが、最後の最後で、金による解決しか許さないと決まってしまった。反対意見が強かった。理由はこうです。いわく、金の代わりに、だれも欲しくない遺産を押し付けることがありうる、そうすると遺留分権利者の権利が侵害されるおそれがあるからというのが理由です。

 で、金がすぐには支払えないなら、裁判所が相当の支払い猶予の期間を与えればいいじゃないかということに決まったんです。

(3)注意点   

「すべて長男に相続させる」遺言の危険

 さて、今回の改正のメリットは、法律関係がわかりやくなったこと、不動産や株式の共有から生ずる法的紛争を避けられることです。

 これは、都市部の資産家や、事業後継者には良い改正だったんだろうと思われます。なぜなら、収益を生む資産があるわけですから、支払期限の猶予さえ認めてもらえば、いずれは、アパートの収益や会社の役員給与から支払えるからです。

調整区域の田畑山林は負債

 しかし、わたしが、今回の改正を知って最初に思ったのは、田舎の農家には過酷な改正であるということです(とくに、豊橋、豊川、蒲郡、田原、新城、岡崎、豊田、西尾、安城など三河地方)。

 (以下、詳細は割愛します。セミナーでお話します。)

郊外の農家の意見は置き去り

 今回の改正をどたんばで変えたのは、都市部にすむ、郊外の農家の実態を知らない弁護士や学者です。要らない資産の押し付けから遺留分権利者を守るというんです。

 都市部のように預金や上場株式だけ残ってる家庭、売れる土地ばかりの家庭なら、みんな平等でいいんです。法定相続分で平等に分けるでいいんです。遺留分だって金で解決でいいんです。後継ぎがどうとか言わなくてもいい。共産主義でもいいんですよ。

 でも、郊外の農家はそうじゃないでしょ。

 (以下、詳細は割愛します。セミナーでお話します。)

後継ぎを守る遺言書の書き方

 で、わたしは、ここ数か月、ず~っと考えてた。郊外の農家の後継ぎを守る方法はなにかないか、と。ひとつだけある。

 (以下、詳細は割愛します。セミナーでお話します。)

後継ぎを守るその他の方法

 さて、遺言書の書き方以外に、郊外の農家の後継ぎを守る方法はあるのか。あります。

 (以下、詳細は割愛します。セミナーでお話します。)

遺産の一部を渡す解決(代物弁済契約)と税法上の問題点

 遺留分制度だけ見ると金で解決しか方法はありませんが、遺産の一部を渡して解決する方法も残っていると言えば残っています。それは、代物弁済契約です。

 遺留分侵害額請求権という金銭債務を、遺産の一部の所有権を代わりに渡すことで、消滅させる契約です。これは、当事者の合意がなければできない。だから、遺留分権利者がうんと言わないとダメ。

 運よくましな不動産があって、代物弁済契約が合意できたとします。ここで、注意しなければならないのは、これは、もう相続とは別物の法律行為だということです。

 だから、相続人間の資産の譲渡にあたりますから、所得税がかかる。譲渡所得税です。昔からの不動産なら、不動産を一旦相続した側に約20%の税金がかかる。

 また、代物弁済の場合、土地の登記簿には、まず相続登記が記載され、その直後に、代物弁済契約とか売買とかの登記原因が載る。そうすれば、相続登記で0.4%登録免許税がかかり、代物弁済で2%の登録免許税がかかります。5000万円の土地の代物弁済なら、もらいが多かった相続人に20万円、もらいが少なかった相続人に100万円の登録免許税がかかる。

 さらに、相続では必要なかった不動産取得税がかかる。もらいが少なかった相続人に、原則、3%かかる。5000万円の土地なら150万円です。

 これまでは、遺留分に関する合意書が自由に作れた。すべての遺産の共有持分の代わりに、遺産の一部の単独所有権を遺留分として渡す解決が実務上認められてきた。この場合は、遺留分という相続権を原因とする権利取得ということで、これだけの税金は必要なかった。

 それが、今回の改正で、遺留分の法的性質ががらりと変わるので、こういう帰結になると予測される。これは、よく注意しないといけない。税務のことを知らない弁護士や司法書士、資産税を知らない税理士は安易に代物弁済契約を教えるでしょうが、あとで税金がどばっと来ますよ。相続人どちらも、1年後に所得税と不動産取得税がどばっときて、怒り狂いますよ。

 こういう事態を避けるためには、

 (詳細は割愛します。セミナーでお話します。)

 今回の改正で一番困るのは、自分の領域しか知識のない専門家かもしれませんね。

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