更新日:2018年12月13日
前回の遺留分の見直しで、相続法改正の主要な解説を終えました。
ほかにも、遺言執行者の権限明記、遺留分計算における特別受益の特則(相続人への特別受益の考慮を10年までに制限するなど)、遺産の一部分割可の明記などほかにも改正項目はあります。
しかし、これらの細かい点は、一般の国民が相続の準備のあたり理解すべきと思われる改正点ではなく、専門家が理解すれば足りるものだと思い、これらの点は解説を省きました。
さて、今回の解説は、JAあいち中央(刈谷市、安城市)さんで組合員向けに行ったセミナーを下敷きにしたものです。
その主旨は、相続法改正による影響から、とりわけ遺留分の見直しから農家の後継ぎを守る方法を検討する点にあります。
当職は、税理士として相続税の申告に携わるようになってから、郊外の農家の相続の実情を目の当たりにしてきました。
維持管理に金がかかる一方で所得を生まないのに高く資産評価されてしまう捨てる場所のない調整区域の田畑山林、無駄に広いがゆえに高く評価されてしまう売るに売れない自宅の敷地、施設に入所すれば数年で意味がなくなる老親の介護のための自宅の修繕費用数百万円、相続後の解体費用数百万円を伴う隠れ負債である自宅建物と納屋、信心深い者ほど出費が多くなる先祖の供養など。
後継ぎは決して恵まれているわけではない。責任感から背負っているだけなのだということを知りました。
かつて、民法学者川島武宜が収集した、日本人の家督相続的な相続の実態は、農家の自然なあり方だったのだと思うようになりました。
弁護士としてだけ活動していたころの「もらえる権利があるならもらってこればいいのに」という権利意識は、実情を知らない浅薄な感覚だったと今は思います。
遺留分を金だけで解決する、今回の改正でそう決まってしまった以上、文句を言っても始まりません。
しかし、そういう解決が正義にかなうためには、相続分や遺留分の計算における田畑山林の評価が実際の取引価格を基準に行われること、建物の解体費用が評価に反映されることなど、財産評価のあり方の見直しも必要なのだろうと思います。
現在の相続税評価は、実際の取引価格とかけ離れています。とりわけ田畑山林は高く評価されすぎています。
相続の調停・審判で相続税評価が常に採用されるわけではないにしても、これが採用されることも多いのです。国税庁は、遺産分けの正義にも影響を及ぼす重要な評価をしていることを意識し、田畑山林の倍率の設定を見直す責務があると考えます。