更新日:2018年12月18日
ア 相続税の試算を疑ってください
これは最近の話です。ある組合員さんが私の担当する農協の相談会にやってきました。相続税対策でアパート建築を勧められて、建築会社が紹介した税理士さんに相続税の試算をしてもらったんですって。で、その試算表を持ってこられたんです。それを見せてもらって私はちょっと驚きました。
(詳細は割愛します。セミナーでお話します。)
ですから、相続税の試算は、利害関係のない税理士さんにやってもらうか、小規模宅地等の特例を使った正味の評価・税額を出してもらうよう要求するべきです。ここで、税理士が、遺産分けがどうなるかわからない以上、小規模宅地等の特例は計算できないとかいうならそれは偽物です。自宅の敷地なんて、配偶者か同居の後継で決まりなんですから。
イ 解体費用は収支計画表に記載されていますか
アパート建築会社の作成する収支計画表はきれいに作成されていますよね。しかし、きれいだからといって常に正しいわけじゃないよね。女の人と一緒ですよ(笑)。
一番問題なのは、40年後の解体費用が計上されていないことです。
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これらの支出が、収支計画表に記載されていますか。記載されていないなら、この点も考慮するべきですよね。
ウ 立退料は考慮してますか
もう一つ、大事な考慮要素があります。立退料です。
老朽化したアパートを解体すると決めますね。「出て行って。」と言って素直に出て行ってくれる入居者ばかりではありません。引っ越し代15万円をポンッと払ってようやく出ていく人、引っ越し代だけでは足りないと言って立退料を請求する人など出てきます。
立退き料の相場はあってないようなものですが、
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これが収支計画表に記載されていますか。記載されていないなら、この点も考慮すべきです。
エ 収支計画表の参考例
わたし、試みに、ひとつ収支計画表を作成してきました。添付資料3を見てください。
5000万円のローンを借りて今ある土地にアパートを建てる、仮に金利は固定金利2%、元利均等で35年で返す計画です。
最初の10年は・・・。11年目から20年は・・・。21年目から30年は・・・。31年目から35年は・・・。36年目から40年は・・・。最後は、解体費用と立退き料です。最終の収支は1000万円くらいです。
今ある土地が5000万円、ローンを5000万円借りて、1億円の評価の資産を40年間運用して約600万円の利益です。単利で計算すると年15万円の利益、0.15%の利回りです。土地の値上がりを待つ経過対応だと考えれば別ですが、それ自体、いい利回りだとは思えません。
オ アパート建築による相続税節税効果はたしかにある
不動産所得はとんとんでも、相続税が安くなればいいという考えもあるでしょう。
たしかにアパートを建てると相続税が安くなることはなります。
ちょっと詳しく見てみましょうかね。添付資料4を見てください。
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相続税の税率が限界税率15%なら、税金が547万5000円節税できます。
手元現金がないときには、ローンを借りてこれをやるんです。
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やっぱり税金が547万5000円節税できます。
土地ばかりの資産家には魅力的にうつります。よくできた話です。問題は、安くなる程度と、ほかに節税の代替手段があるかどうかです。
カ 土地の売却時期に有利不利はなくなった
ちょっと、ほかの節税の代替手段のことも見ておきましょうか。
その話をする前に、必要なことなので、土地の売却時期の話をしておきましょう。
数年前までは、資産家が土地を売却する時期に有利不利がありました。相続税の納税資金を捻出するために、相続開始後3年10か月以内に土地を譲渡すればメリットがありました。譲渡所得税が安く済んだんです。
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だから、土地を売却する時期に有利不利はもうないんです。親戚も世間も、土地を守るのが器量という意識なんて薄れていますよね。とくに刈谷や安城なんて都市化が著しいでしょ。土地の売却の一つや二つでキャーキャー騒ぐ生娘でもありますまい。有効活用できていない土地なら生前に売ればいいんです。
キ 土地の売却代金と生前贈与
さて、首尾よく生前に土地が売れたとしますね。相続税評価5000万円の土地が6500万円くらいで売れたとしましょう。相続税評価は公示地価の8割くらいに設定されていると言われていますので、だいたいこれくらいで売れるのではないでしょうか。
売却代金がすべて手元に残るわけではありません。所得税住民税が20%で1250万円(細かい話は理解を妨げますから、5%の概算取得費は今日は無視します。)、不動産仲介手数料が3%で195万円くらい、測量費用が70万円くらい、税理士に頼む所得税の申告などその他の諸経費30万円として、手元に残るのは5000万円くらいでしょうか。結局、相続税の評価と同じくらいですね。
さて、添付資料4を見てください。一番右です。
これを元手に、生前贈与をすればいいんです。
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結局、561万円は節税になりますよ。
ここで、売却代金が活きるじゃないですか。資産活用になってるじゃないですか。
ク あとは心の問題です
さて、アパート建築で、相続税547万5000円減らすのと、土地を売った金を元手に生前贈与で相続税561万円減らすのと、なにかちがいがありますか。相続税との関係ではありません。
あとは、みなさんの心の問題です。思い入れのある土地を手放したくない、「ニートです」ではなく「不動産経営者です」と見栄を張りたい、自立できなかった子供のために不労所得を用意しておきたい、生前贈与で子供を甘やかしたくないなどです。
とくに、生前贈与で子供を甘やかしたくないという理由が思いのほか強い。昔の方は、「生前贈与で子供を甘やかしたくない。まともに働くことを続けてほしい。金で人生狂わしたくない。」と言われます。それが日本人の美徳でしたね。
でも、時代が変わりました。たしかに、昔は、金は触れるべきものではなかった。でも、今は、金は触れて扱いを覚えていくものに変わりました。豊かになった時代にはその時代の美徳が生まれるんです。生きているうちのどこかで、子供や孫を信じて託していくしかないじゃないですか。それで、感覚がこわれるやつならそこまでです。金は魔物ですが、うまく扱えるようになるには経験も必要ですよ。
みなさんの中には、すでにアパートを建てて失敗したなあと後悔している方もおられるでしょ。もっと早くに親から財産を託してもらって、小さな失敗を積んでおけば、晩年になって、うかつな話に騙されることもなかったんじゃないでしょうか。
ケ 一括借り上げの魅惑と絶望
うかつな話に騙されるという話でいえば、●●●●●や●●●●などの建築会社が、家賃保証の一括借り上げを推奨していますよね。
家賃保証といっても、「ずっと借主でいますよ。」という意味に過ぎません。家賃の金額まで保証するものではありません。2年ごとに賃料の減額が提案され、事実上断れないという内情は報道もされています。
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さっき見たでしょ。新築して10年も過ぎれば空室が増えます。そうなれば、大企業でも、賃料減額を請求してきます。こちらの毎月のローンの返済は変わりませんから、よくてとんとん、悪くするとマイナスの収支になります。相続人は、あと20年はマイナスの財産を背負い続け、最後は、解体費用でどかーんです。私は心配しています。そのとき、おやじの墓には花が供えてあるのでしょうか(笑)。
もちろん、立地が最適で入居者が支持してくれる物件なら、一括借り上げはこの上なく安気な管理方法だと思いますよ。
コ 遺産分割の難航が見えていますか
相続税の試算と不動産所得の収支計画表は誰もが一応検討はします。しかし、遺産分けの検討はしてますか。
不動産は遺産分けの難しい資産です。土地の上にアパートが建っていようものならますます遺産分けが難航します。ほかに分けるべき預貯金や、容易に売れる不動産があれば別ですよ。でもなければ、遺産分けは難航します。争ったあげく、不動産の共有状態か、不動産の評価額の法定相続分を後継ぎが金で払わなければなりません。どちらにしたって、後継は幸せになれません。ましてや、空室が多い、ローンの支払が残っていて、毎年支出超過なんてアパートなら、目も当てられません。うまうまと建てさせられたおやじは、後継ぎに恨まれるのがおちですよ。
税務署の方だけ見ていると足元をすくわれます。後継のための相続争い対策を忘れていませんか。
サ さいごに
私は、どんなケースでも、「ローンを借りてまでアパート建てるな。」と言うつもりはありません。関係者がみんな幸せになれるアパート建築はたしかにあります。
ですが、これからの不動産経営は、10年前と同じような簡単な不労所得ではありません。昔のように人口が増えるわけじゃない。急速に減っていくんです。一方、相続税は大衆税になりましたから、相続税対策にアパートを建てる人も増えます。現在でも、アパートの供給は過剰なんですよ。ますます競争が激しくなります。
そもそもみなさんの土地がアパートに適しているのかどうか、正しく評価する必要があります。また、未来のことも考えなければなりません。10年後、20年後に空室がでないためにはどのような間取りと設備をそなえればいいのか、住まい手のニーズを見通す必要があります。そして、すでに住んでおられる住まい手に住み続けていただくためにどのようなサービスを提供すればいいのか考えて行動しなければなりません。これは、ビジネスです。知的産業ですよ。とりわけ、建てるときの判断に考慮すべき事情がとても多い創業時知的産業です。私が今名付けた(笑)。
どのような判断もそうですが、言葉の上で、論理的であれば正しいわけではありません。判断過程のなかで考慮すべき事情を考慮できていない判断は間違いです。また、すべての事情を考慮していても、判断との関係で、考慮すべき各事情のもっているパワーを見誤った判断も間違いです。考慮すべき事情を考慮しつくし、かつ、それぞれの事情がもつ重みを正しく測れるのが知性です。それができる人は相続税との関係でも、不動産所得との関係でも、後継ぎの相続対策との関係でも成功するでしょう。