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よくわかる相続・税金のしくみ

生前贈与の節税効果・贈与の証明の必要性・3年内加算と特別受益の対象範囲の違い

更新日:2018年05月18日

生前贈与による相続税の節税

 贈与は、無償で財産を与える意思とこれを受ける意思の合致による契約(民法549条)です。勝手に作った名義預金が何十年経っても贈与税の時効(最長7年)にかからないのはそもそも贈与契約が成立していないからです。

 贈与は年間110万円まで受けても贈与税は課税されません。申告書の提出も不要です。贈与税は受贈者ごとに計算しますから、子供、子供の配偶者、孫といった身内に毎年110万円ずつ贈与すれば、少ない手間で相続税が節税できます。身内が6人もいれば1年間で660万円の財産が減り、5年間で3300万円の財産が減ります。

 また、相続税の限界税率が30%以上の高率なら、1人当たり400万円ほど贈与すれば、10%以下の(贈与)実効税率で財産を速やかに移転でき、相続税の節税効果は高まります。

   ここで、贈与の証明についてあれこれ気に病む必要はありません。気になるなら、口座から口座に振り込み、贈与者の通帳に「誰それへ贈与」とでもメモしておけば十分です。

贈与の証明の必要性①少額納付

 生前贈与の証拠として、あえて111万円贈与し、1000円の贈与税の申告納付をするように税理士から勧められたという話をよく聞きます。つまらない俗説です。

 証明責任については、自己に有利な法律効果を主張する者が、「自己に有利な法律効果を導く事実」を証明しなければ真偽不明で敗訴する、というのが訴訟法の原則です。

 贈与の事実は、相続税が安くなるので相続人にとってたしかに「自己に有利な事実」には違いありませんが、相続税法の条文構造上、相続人にとって「自己に有利な法律効果(相続税支払請求権の減額)を導く事実」ではありません。

 反対に、税務署は、自己に有利な法律効果(相続税支払請求権の発生)を主張するため、故人からの贈与がなかったので「相続・・・により財産を取得した」(相続税法11条)という事実を証明する必要がありますが、これはきわめて困難な作業で通常徒労に終わります。

 税率が高率ならともかく、低い相続税率で完璧な証明のための骨折り申告はしないほうが合理的です。

贈与の証明の必要性②定期金

 毎年同じ時期に110万円ずつ贈与するとまずいから金額と時期をずらすように税理士から勧められたという話もよく聞きます。これもつまらない俗説です。

 民法上、継続して定期に金銭を給付する契約を定期金契約といいます(民法689条参照)。

 たとえば、10年間にわたり、12月に110万円ずつ給付するという約束です。これは約束した時点で契約の効力が発生しますから、約束の時点で1100万円程度の経済的利益が移転したと評価されます。相続税の調査で死亡から遡って7年(贈与税の時効)までの間に定期金契約があったと認定されると、非常に高率の贈与税を納めるおそれがでてくるわけです。

 しかし、「定期金給付契約」(相続税法24条)の存在の証明責任は、贈与税支払請求権の発生を主張する税務署にあります。税務署が、過去の一時点で将来の定期給付を一度に約束したことを証明しなければなりません。毎年贈与の実態があれば調査で「毎年もらった」といえばお終いです。

生前贈与の3年内加算

 民法上、死亡の直前の贈与も、贈与者の意思さえしっかりしていれば有効に成立します。一方、相続税法は、死亡日から遡って3年以内の生前贈与は、民法上有効であることを前提にした上で、(年間110万円以下の贈与であっても)その贈与額を相続財産に加算すると定めています。これは、3年内加算といって、死亡直前の課税逃れを防止する趣旨といわれています。

 ここで留意すべきことは、3年内加算の対象となる贈与は、相続により財産を取得した「相続人」に対する贈与に限定されていることです。子供の配偶者や孫への贈与は加算されません。したがって、重篤な状態になった後でも節税を図るなら、相続人以外の身内に贈与すればよいのです。また、住宅取得等資金贈与や配偶者への居住用不動産の贈与の特例などの一定の贈与は、相続人に対する贈与であっても加算されません。

 3年以内の生前贈与で相続人が贈与税を納付している場合、相続税の計算では、各人の相続税額から贈与税額を控除できます。

贈与と特別受益

 民法上、故人から生前に特別の利益を受けていた相続人の遺産の取り分を少なくする仕組みがあります。特別受益の制度です。簡潔に説明すると、現実の相続財産に特別受益額を加算(持ち戻し計算)して民法上のみなし相続財産とし、これを基準に各相続人の法定相続分を算出します。特別受益者は、法定相続分から特別受益額を控除した残額分しか相続できません。

 特別受益制度の趣旨は、相続における衡平ですから、相続分の前渡しと評価できるような特別の贈与しか対象になりません。通常の贈与は対象になりません。また、子供の配偶者や孫に対する特別の贈与も原則対象になりません。他方で、相続税法における生前贈与の3年内加算と異なり、何年前の贈与であっても特別受益になりえます。

 さて、かりに特別受益が認定されても、今度は、特別受益の持ち戻し免除という制度があります。なかでも持ち戻し免除の黙示の意思表示の認定など、裁判実務については、時間のとれる相談会でご説明します。

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