更新日:2018年05月18日
借金によるアパート建築と相続税の節税
前回説明したように、貸家による財産評価の減少効果は著しいため、相続税対策としてアパート建築が勧められます。なかには借金をしてまで建築するケースもあり、「借金してアパートを建てれば相続税が節税できる」との説明も耳にします。具体的に説明します。
(1)1億円を借金する前
土地2億円 建築予定地1億円
=相続財産3億円
(2)1億円を借金した後
土地2億円 建築予定地1億円 現金1億円
債務△1億円
=相続財産3億円
(3)建築した直後
土地2億円 貸家建付地8500万円(15%減)
アパート5000万(建築資金の5割)
債務△1億円
=相続財産2億3500万円
(4)相続税の限界税率30%(子供3人)の節税効果
(1)-(3)= 6500万円×30%
=1950万円の節税
このような節税の仕組みは、市街化区域に土地を多く持つ一方、手元資金が乏しい資産家にはとても魅力的に映ります。たしかに良くできた話です・・・。
相続税の節税のことだけ考えれば借金してアパートを建てることは合理的です(税率によりますが)。しかし、将来の不動産収支は確実でしょうか。
たとえば、35年ローンで1億円借りると、固定金利2%、元利均等返済で年間約400万円の返済です。新築から10年は満室でも、10年経てば空室が生じ、15年経てば空室が目立ち、20年経てば空室が多くなり、25年経てば空室ばかりという状況もありえます。その場合、21年目から35年目まではローンの返済及び修繕費が家賃収入を上回り、毎年300万円は赤字になるでしょう。そして、40年後の解体費用として800万円~1000万円が必要です。結局、不動産収支を40年間通算してみると、支出超過も十分ありえます。
人口が減る時代、企業が撤退する一方でアパートの供給は増える東三河(豊橋市・豊川市・蒲郡市・田原市・新城市など)で、不動産収支は確実とはいえません。少なくないケースで、借金によるアパート建築は相続人に負債を残すようなものです。
建築会社作成にかかる、借金によるアパート経営の「収支計画表」は実に論理的です。
しかし、収支計画表には解体費用の記載がありません。空室リスクと金利変動リスクの見通しも随分甘いです。一括借上による家賃保証の場合でも家賃「金額」は保証されません。収支以外のリスク、とりわけ、換金できない資産の遺産分けの難航を指摘する注意書きもありません。総じて、判断の基礎となる事情の指摘・評価が不十分との印象を受けます。
私は、借金によるアパート建築を全て否定するつもりはありませんが、相続人の幸せのために抽象的な助言だけは必要だと思います。論理とは、愚か者でも扱える許認可の不要な刃物です。判断との関係で考慮すべき事情を切り捨てればいくらでも論理的になります。判断との関係で考慮すべき事情を考慮しつくし、考慮すべき事情のもつそれぞれの重みを正確に量る、そういう判断の過程における気遣いが正しさを導くのです。論理的であることは正しさの十分条件ではありません(場合によっては必要条件ですらありません)。